中国の工場に出張すると、視察や商談が終わった後、だいたい食事に連れて行ってもらう。ここまでは日本の接待と変わらない。違うのはその先だ。食事が終わると、当然のように「じゃあ次、マッサージ行きましょう」という流れになる。
断る理由が見つからない
工場の社長やホストが、ごく自然に手配してくれる。こちらからリクエストすることも正直ある。足つぼから全身まで、70分から80分ほどかけて、じっくりやってもらえる。相場は200元(日本円で約4,000円前後)。日本で同じ内容を受けたら、倍以上はかかるだろう。
しかもこれ、払ったことがない。申し訳ないと思いつつも、一度も自腹を切ったことがない。毎回ごちそうになっている。もはや接待の一部として完全に組み込まれていて、こちらが遠慮する余地すらない空気がある。断る理由が見つからないのだから、素直にありがたく受けている。
かつては飲み屋だった、その枠
面白いのは、この「食事の後のマッサージ」という流れが、どうやらここ数年で定着したものだということだ。以前は食事の後、日本で言うところの「お姉さんのいる飲み屋」に連れて行ってもらえた時代があったらしい。いや、「らしい」ではなく、実際に自分もかつてはその恩恵にあずかった側の人間である。
ところが今は、そういった店がほとんど姿を消している。政府の規制強化や風紀の取り締まりが厳しくなった結果、夜の接待の選択肢がごっそり減った。マッサージ自体は昔からあったが、飲み屋という選択肢が消えたことで、食事の後は自然とマッサージに流れるようになった。国の方針一つで、夜の過ごし方の選択肢がここまで変わるのだから、中国という国のダイナミズムには毎回驚かされる。

マッサージ中の過ごし方
施術中は、隣のベッドにいる同行者や工場の社長としゃべっていることが多い。内容はもっぱら雑談か下ネタだ。商談の続きをすることはほぼない。足つぼを押されながら、くだらない話で笑い合っている光景は、冷静に考えるとなかなかシュールである。
ただし、初対面では行かない
ここで一つ面白いことに気づいている。初めて行く工場の人と、いきなりマッサージに行ったことは、今まで一度もない。最低でも二回、三回は食事を共にして、なんとなく飲みにも行って、ある程度の関係性ができあがってから、ようやく「じゃあマッサージでも」という流れになる。
考えてみれば当然かもしれない。隣のベッドで下ネタを交わせる相手というのは、それなりに心を許した相手ということだ。つまり中国の出張において、マッサージに誘われるかどうかは、取引先との関係性のバロメーターでもある。「食事止まり」なのか「マッサージまで行ける仲」なのか。名刺交換の回数より、よほど正確に距離感を測れる指標かもしれない。
日本の接待で言えば、二次会の居酒屋でネクタイを緩めながら本音を語り合う、あの時間に近いのかもしれない。ただ、酒ではなく足つぼで心を開くという点で、中国の方がよほど健康的ではある。肝臓を犠牲にせず、翌朝の体調も万全。これを考えた人間は天才だと思う。
日本の接待文化も、いっそ全部マッサージに切り替えたらどうだろうか。二次会のカラオケより、よほど生産的だと本気で思っている。

