【ポンコツのたわごと #11】流せない国で、私の指は今日も離れる

【ポンコツのたわごと #11】流せない国で、私の指は今日も離れる ポンコツのたわごと

日本のトイレは、異常だと思う。

褒めているのではない。世界の基準から明らかに外れている、という意味である。便座は温かく、水は勝手に流れ、必要なら洗ってくれて、音まで鳴らしてくれる。あれを標準だと思って育った体が、海外に出るとどうなるか。

今日はその話を書く。

そもそも私は、日本のトイレでも選んでいる

先に白状しておくが、私は日本国内でもトイレを選んでいる。

小のほうはどこでもいい。駅でも公園でも、特に何も思わない。

問題は大のほうである。座る、という行為が入った瞬間に、私の中で審査が始まる。ショッピングモールの共用トイレ、駅ビルの地下、古い商業施設。どれも清潔に保たれているのは分かっている。分かっているのだが、便座に直接座るとなると、話は別だ。

だから日本にいても、できれば我慢する。家に帰るか、比較的新しい施設を探すか、最悪は紙を敷く。

この程度の潔癖さで、40年生きてきた。

中国の公衆トイレは、ひどい

そんな私が海外に出ると、どうなるか。

はっきり書くが、中国の公衆トイレは、ひどい。

私は中国のいくつもの街に足を運んでいる。観光でも仕事でも行っている。だからこそ言うのだが、あそこの公衆トイレは、日本の感覚で扉を開けてはいけない。

見た目がまず違う。そして匂いが、扉を開ける前から来る。個室の中に何があるかを確認する前に、体が引き返す判断を下している。

しかも和式が多い。日本の和式とは形状が違うものもあって、初見では姿勢すら定まらない。

これまで何度、入って3秒で引き返したか分からない。数えていないが、一度や二度ではきかない。

念のため書いておくが、これは中国だけの話ではない。東南アジアでも似たようなものだったし、国というより施設のグレードの問題である。ただ、遭遇率という点では、中国が群を抜いていた。

便器の隣に、ゴミ箱がある

海外のトイレには、日本にないものが置かれている。

便器のすぐ横の、小さなゴミ箱である。

あれが何のためにあるか、初めて見たときは分からなかった。生理用品か何かだろうと思っていた。違った。

拭いた紙を、そこに捨てるのである。

東南アジアや中国では、トイレットペーパーを便器に流せない場所が多い。紙が水に溶けにくく、配管も細いので、流すと詰まる。だから流さずに、横のゴミ箱に入れる。

判断は簡単で、**個室にゴミ箱があれば流せない、なければ流せる。**入った瞬間に確認すれば、それで分かる。

理屈は理解した。ルールも覚えた。

問題はそこから先だった。

覚えていても、指が離れる

私は、この動作ができない。

拭く。ここまではいい。問題はその次で、紙を持ち上げて、体をひねって、横のゴミ箱まで運び、そこで手を離す。この一連の動きが、どうしても完結しない。

指が、勝手に離れるのである。

拭き終わった瞬間、手が指が開く。トイレットペーパー、落ちる。

意識していないわけではない。今日は捨てるぞ、と入る前に確認している。それでも落ちる。頭では覚えているのに、体が40年分の習慣を実行してしまう。

日本で生まれ育った人間の手は、拭いた紙を便器に落とすように出来上がっている。あれは意志ではなく、反射である。

そして反射は、知識では止まらない。

フロントを呼ぶと、ポンプを持ってやってくる

落とせば、当然どうなるか。

詰まる。

しかも中国のホテルは、一度詰まると自力ではまず戻らない。何度かレバーを引いてみるが、水位が上がっていくだけで事態は悪化する。最悪、溢れ出る可能性すらある。ここで粘っても仕方がないと学習した私は、素直にフロントに電話をかける。

詰まりました、と伝える。

すると数分後、スタッフが道具を持ってやってくる。棒の先にゴムの吸盤がついた、あれである。世界共通の形をしている。

そして始まる。シュコ、シュコ、シュコ。

ホテルのスタッフにトイレの詰まりを直してもらう

このとき私は、部屋の入口あたり、便器から2メートルほど離れた位置に立っている。近づくわけにもいかず、部屋を出るわけにもいかず、両手を前で揃えて、ただ見ている。

申し訳なさそうな顔をしているが、何の役にも立っていない。

向こうは慣れた手つきで淡々と作業を進めている。おそらく今日だけで何件目かなのだろう。こちらを責める様子もなければ、驚いた様子もない。それが余計にこたえる。

数十秒で、水位が下がる。終わりました、と言われる。ありがとうございます、と頭を下げる。

そしてこれを、私は一度ではなく、何度もやっている。

だから、家を出る前に全員済ませる

こういう人間なので、子どもたちに対しては徹底している。

出かける前に、必ず全員トイレに行かせる。行きたくないと言っても行かせる。外で「行きたい」と言われたときの選択肢の少なさを、私が一番知っているからだ。

それでも外で言い出したときは、店を選ぶ。公衆トイレは基本的に使わず、きれいなレストランやショッピングモールまで移動する。多少歩くことになっても、そのほうが早い。

そして座らせる前に、便座を拭く。除菌シートかアルコールのウェットティッシュを常備していて、これは旅行中に一番出番の多い必須の持ち物かもしれない。

日本が異常なのか、世界が普通なのか

こうして書いてみると、困っているのは私のほうである。

現地の人は誰も困っていない。ゴミ箱に捨てるのが当たり前で、そういうものとして生活が回っている。詰まらせているのは、日本から来た人間だけだ。

温水洗浄便座が当たり前の国から来て、紙を流せないだけでパニックになる。そのうえ現地の人に道具を持ってこさせて、後ろで申し訳なさそうに立っている。

どちらが異常なのかは、もう明らかだと思う。

次の旅行でも、私はたぶん落とす。

そして2メートル後ろに立つ。

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