出張のたびに、羽田空港第2ターミナルで同じ光景を見る。
普段着に近いラフな格好の人も、もちろんそれなりにいる。だがその中に必ず、他の空港ではあまり見かけない一団が混ざっている。スーツをきっちり着込み、ネクタイを締め、革靴を履き、サラリーマンの象徴のような四角い黒いビジネスバッグを提げた集団だ。
決まって隣にいる、若い女性社員
面白いのは、その一団の隣に、決まって若いスーツ姿の女性社員が一人か二人ついていることだ。上司らしき人物が、これから向かう異国の話を、やけに自慢げに語っている。「これが美味しいんだよ、今度一緒に行こう」。そんな調子の会話が、声の大きさも手伝ってこちらまで丸聞こえである。
悪気があって聞いているわけではない。ただ毎回同じような温度の会話を耳にするので、もはや羽田第2ターミナルの風物詩として認識している自分がいる。おそらくあのおじさん方は、これから飛行機に乗って海外に行くという高揚感と、普段社内でどういう立場かは知らないが、若い女性社員を連れて出張できるという状況とで、いろんな意味で興奮してるんではなかろうか、と勝手に想像している。
考えてみれば、あの食事のお誘い、大抵の場合、自分の財布ではなく会社の経費から出る。他人の金で気前よく振る舞えるうちが、一番機嫌よく生きられる瞬間なのかもしれない。
一方、私はというと
私はこの一団の対極にいる人間だ。夏場の出張はほぼ半袖短パンにスニーカー、というスタイルで空港に向かう。正直、旅行に行くときの服装とほとんど変わらない。
さすがに現地に着いて商談となれば短パンは履き替えるが、それでもジーンズにTシャツ、あるいはチノパンにTシャツ、というラインから大きく外れることはない。ポロシャツすら着ないし、ジャケットを羽織ることに至ってはほぼ記憶にない。
実はうちの会社、社名を聞けば100人中80人くらいは知っているだろうという規模ではある。それでもこの格好で出張に出られているのは、間違いなく社風に助けられている部分が大きい。服装、髪型、髭などに関してほぼ規則がない、というのは地味にありがたい話だ。
この差は、一体どこから来るのか
同じ羽田から飛ぶのに、片やスーツでビシッと決めて部下を連れて自慢げに語り、片や短パンでふらっと一人で向かう。この温度差は何なのだろうか、と毎回ぼんやり考える。
会社の格式なのか、業界の慣習なのか、あるいは「出張はきちんとした身なりで臨むべき」という世代的な価値観の名残なのか。正解は分からないし、別にどちらが優れているという話でもない。
これは賛否両論あるかもしれないが、少なくとも私の経験上、見た目をきっちり整えたおかげでまとまった商談も、逆にラフな格好のせいで潰れた商談も、一度もない。それに「スーツをきっちり着ている=仕事をしている感」という空気自体が、個人的にはあまり好きではない。
とはいえ、あの黒いビジネスバッグの集団を否定したいわけでもない。ただ、自分は一生あの装備を背負うことはないんだろうな、という妙な確信だけは、羽田第2ターミナルを通るたびに強まっていく。半袖短パンでゲートに向かう男に、部下を引き連れる日はおそらく永遠に来ない。
今日もゲートへ向かう足取りが軽い。

