海外旅行の持ち物リストを検索すると、モバイルバッテリーはほぼ必ず「必需品」として並んでいる。異論はない。あれば便利だ。
だが、私は持っていかない。家族旅行でも、出張でも同じである。
過去、規制が厳しくなる前を含めても、持っていったのは1〜2回程度だと思う。家族4人で10日間、東南アジアを4カ国まわった時も持っていかなかったし、中国への出張でも持っていかない。
理由は、荷物を減らしたいからではない。持っていくと、面倒なことになる確率が高いからである。
ルールは、確かに厳しくなった
まず現状を整理しておく。
2026年4月24日から、日本でも新しいルールが適用されている。国際民間航空機関が国際基準を緊急改訂したことを受けて、国土交通省が告示を改正した。追加されたのは3点だ。
機内に持ち込めるモバイルバッテリーは2個まで、それも160Wh以下に限る。機内でモバイルバッテリーを充電してはいけない。機内でモバイルバッテリーから他の機器へ給電してもいけない。
これに加えて、従来からのルールとして、預け入れ荷物に入れることは禁止されている。そして今回の改正では、違反に対する罰則も設けられた。
注意してほしいのは、これが緩和ではなく強化だという点だ。以前は100Wh以下なら個数の制限がなかった。それが2個までになった。
ただ、この記事でルールの詳細を長々と説明するつもりはない。数値の話は各航空会社の公式サイトに正確に書いてある。私が書きたいのは、その先の話だ。

深圳の保安検査で、1万円が消えた
出張に同行していた人が、モバイルバッテリーを没収されたことがある。
深圳の空港、日本への帰国便の保安検査だった。理由は、本体に3Cマークが印字されていないこと。それだけだ。中国の強制製品認証を示すマークで、日本でいうPSEにあたる。日本市場向けの製品に印字されているはずがない。
容量は見られていない。ブランドも、価格も、関係なかった。マークが1つないというだけで、問答無用だった。
1万円ほどする物だったらしい。もったいないね、と話した。それだけで終わった。交渉の余地は、最初からなかった。
後から知ったのだが、この3C認証の要求は、規則上は中国国内線に対するものである。深圳から日本へ帰る便は、国際線だ。文面を素直に読めば、対象外のはずだった。
だが、没収された。規則にどう書いてあるかは、その場では関係がない。
ついでに、もう1つ聞いた話がある。中国では2025年の6月末に国内線での持ち込みが禁止され、空港には没収されたバッテリーの山ができた。杭州の空港では、施行直後の10日間で1万8000個を没収したと報じられている。
その後、中古売買のサイトに「空港仕入れ」を謳う格安バッテリーが大量に出回った。没収品の横流しではないか、と批判が起きたそうだ。
もっとも、買ってみたら膨らんでいた、壊れていた、という話も少なくないらしい。本当に空港から流れてきたのか、それとも「空港で没収された品」という肩書きが、ただの売り文句になっているだけなのか。
どちらにせよ、そんな素性の知れないものを、わざわざ買い直したいとは思わない。
ここで押さえておきたいのは、航空会社が一切関係なかったということだ。
日本の航空会社を使おうが、日本の告示を隅々まで読み込んでいようが、現地の保安検査には何も届かない。没収するのは航空会社ではない。その国の検査場である。
そしてもう1つ。深圳は、世界中のモバイルバッテリーが設計され、製造されている街だ。日本でおなじみのブランドの多くも、開発拠点をここに置いている。
モバイルバッテリーを世界に送り出している街の空港で、モバイルバッテリーが没収された。
上海では、アイコスが引っかかった
私自身も、似た経験をしている。
上海の虹橋空港で、スーツケースの中に入れていたアイコスが引っかかった。これは手荷物で持て、と言われた。没収はされなかったが、その場で荷物を開けて取り出す羽目になった。
正直、腑に落ちなかった。あんな小さなものを、と思った。
同時に、こうも思った。**ノートパソコンは預けられるのに、なぜアイコスは駄目なのか。**中身は同じリチウムイオン電池ではないか。
後で調べて、理屈は分かった。基準は「電池かどうか」ではなく、「機器に内蔵されているかどうか」なのだ。ノートパソコンやカメラは、電池が本体に固定されていて端子が露出していない。回路が制御している。だから電源を切って保護すれば預けられる。
一方、モバイルバッテリーやアイコスは、単体の電池に近い。端子が剥き出しで、荷物の中で金属に触れれば短絡し得る。
そしてもう1つの理由が、貨物室では誰も気づけないということだ。客室で煙が出れば、乗客も乗務員もすぐ気づいて消せる。貨物室では、燃え始めても分からない。だから危険なものほど、人の目が届く場所に置かせる。
理屈としては、納得できる。虹橋の検査官は、正しかった。
ところが、東南アジアでは何も起きなかった
話はここで終わらない。
家族4人で東南アジアを4カ国まわった時、私はスーツケースの中に、アクションカメラの予備バッテリーを入れたままにしていた。
シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ。4回の保安検査を、すべてそのまま通過した。
言っておくが、これは違反である。機器から取り外した予備の電池は、モバイルバッテリーと同じ扱いになる。預け入れ荷物に入れてはいけない。私も、後から知った。真似をしないでほしい。
だが、一度も止められなかった。4カ国それぞれ別の当局、別の空港、別の検査官である。それでも、全部通った。
見落とされたのか、そもそも気にされていないのか、私には分からない。ただ結果として、同じリチウムイオン電池が、深圳では1万円ごと消え、東南アジアでは4回素通りした。
通るか通らないかを、こちらは決められない
この話を、「うまく紛れ込ませれば通る」と読む人がいるかもしれない。それは違う。
正しい読み方はこうだ。通るか通らないかを、こちらでコントロールできない。
4回通ったから5回目も通る、という保証はどこにもない。私の場合、たまたま見逃され続けただけで、次に同じことをすれば止められるだろう。深圳で没収された彼だって、それまで何度も通してきたはずだ。ある日突然、基準が変わった側に自分が立っていた。それだけの話である。
規則を調べ尽くしても、この不確実性は消えない。書かれていないことで止められることもあるし、書かれていることが見逃されることもある。保安検査というのは、最終的にはその場の担当者の判断で決まる。目の前の人が駄目だと言えば、それが答えになる。
これは特定の国の話ではない。どこでも起こり得ることだ。
そして家族4人分の荷物を持ち、往路と復路と経由地の全部で、この確認をやり続けるのは、正直に言って現実的ではない。

だから、持っていかない
期待値を計算しようにも、確率が分からない。そういう賭けには乗らない、というだけの話である。
代わりに何をしているか。
**充電ケーブルの本数を確保している。**我が家は充電器4本とケーブル4本、合計8本を持っていく。家族の人数分ではなく、充電が必要なデバイスの数だけ必要になるからだ。私は携帯を3台持ち歩いているし、これにスマートウォッチ、子供のゲーム機、アクションカメラが加わる。夜、寝ている間にまとめて充電するには、同時に挿せる本数が要る。
そして**空港の充電スポットと、機内のUSBポートを最大限に使う。**着陸する前に、全員分の携帯を満タンにしておく。
初めて訪れる国に、電池残量ぎりぎりで入国するのは危険だ。配車アプリも、地図も、翻訳も、決済も、全部あの1台に入っている。

モバイルバッテリーを持っていかないという判断は、その分、出発前の段取りに責任を移すということでもある。楽をするための選択ではない。
どうしても必要なら、安いものを1個だけ持っていって、没収されなかったらラッキー、くらいに構えておくのがちょうどいい。
高いから通る、安いから弾かれる、という話ではないのだ。
※本記事は2026年8月時点の情報に基づく。ルールは改定が続いており、国際航空運送協会の規定変更により、2027年1月以降はさらに厳しくなる可能性が示されている。渡航前に、必ず国土交通省および利用する航空会社の公式サイトで最新情報を確認してほしい。

