
香港・マカオ旅行の4日目。今日は、マカオの世界遺産エリアを巡る、いわば「マカオ観光の本番」の日である。だが、結論から言えば、この日私の記憶に最も強く残っているのは、荘厳な天主堂でも、歴史ある広場でもなく——カジノのバカラ台だった。その顛末は、追い追い語ることにしよう。
広すぎるベネチアンで、集合できない一族
朝、我々はベネチアンをチェックアウトし、次の宿へ移動する予定だった。そのために、まずは全員で集合しなければならない。集合場所は、チェックインカウンターの前。時間も決めた。シンプルなはずだった。
だが、ここでベネチアンの「広さ」が牙を剥く。
とにかく、この施設は広い。広すぎる。館内はショッピングモールあり、運河あり、カジノあり、レストラン街ありと、一つの街がまるごと建物の中に入っているようなものだ。その結果、自分が今どこにいるのかすら分からなくなる者が続出した。
「今どこ?」と電話をかけても、返ってくるのは「えっと…お店がたくさんあるところ」といった、まるで役に立たない答えばかり。それはそうだ。この施設、どこもかしこも「お店がたくさんあるところ」なのだから。電話で場所を聞いても、その場所自体がどこなのか誰にも分からない。結局、誰かが直接迎えに行かないと合流できない、という有様だった。
12人が一箇所に集まる。ただそれだけのことに、我々はかなりの時間を費やすことになった。ベネチアンの広さを、こんな形で思い知るとは思わなかった。
ベネチアンを出る前に、スタバでご当地タンブラー
なんとか全員が集合し、ようやくベネチアンを後にする。次の宿へ向かうバス乗り場へ向かう、その直前だった。
スターバックスがあった。
旅先でスターバックスを見つけると、私にはひとつ、やっておきたいことがある。ご当地限定のタンブラー集めである。旅の記念として、その土地でしか買えないデザインのタンブラーを手に入れる。今回も、しっかりマカオのご当地タンブラーをゲットした。
そしてここで、微笑ましい一幕が。下の娘が、いとこの一人にクロミちゃんのスターバックスタンブラーをおねだりし、買ってもらっていたのだ。いとこに甘えて宝物を増やしていく娘の姿は、大所帯の旅ならではの光景だった。

さて、バスに乗って向かった次の宿は、「ワルドホテル・マカオ(Waldo Hotel)」。前夜泊まったベネチアンが一室あたり一泊約8万円だったのに対し、こちらは一室あたり約2万円。実に4分の1である。マカオ2泊のうち、初日は「贅沢する日」、そして2日目は「地に足をつける日」という、明確なメリハリをつけた宿選びだった。
ワルドに着いてみると、豪華絢爛なベネチアンとは、確かに趣が違う。派手さはない。だが、部屋は十分に広く、清潔で、快適だった。豪華さはないが、これはこれで何の不満もない。むしろ、ベネチアンの華やかさに少々あてられていた身には、この落ち着いた普通さが、かえってちょうど良かったのかもしれない。
ただ、この時点ではまだチェックイン時間には早かった。そこで、フロントに荷物だけを預け、我々は身軽な状態でマカオ観光へと繰り出したのだった。
聖ポール天主堂跡、名所より人混みに疲れる
ワルドから、タクシーでセナド広場へ向かう。マカオ観光の定番中の定番、世界遺産エリアの中心である。

正直に告白すると、私はもともと、歴史的な建造物や街並みに、それほど強く心を動かされるタイプではない。どちらかといえば、雄大な自然の景色の方に惹かれる人間だ。だからだろうか、セナド広場そのものには、正直、そこまでの感動はなかった。「ああ、これがガイドブックで見たあの広場か」という程度の感想である。
問題は、その先だった。
セナド広場から、マカオのシンボルである**聖ポール天主堂跡(大三巴牌坊)**へと向かう。ところが、この天主堂跡へ至る道が、尋常でない人混みだったのである。天主堂跡そのものも混んではいたが、それ以上に、そこへ向かう道中が問題だった。人、人、人。前に進もうにも、全然動けない。観光名所を楽しむというより、人混みをかき分けることに全エネルギーを消耗する、そんな時間だった。
名所の感動よりも、そこに至る道の激混みの方が記憶に残る。人気観光地というのは、得てしてこういうものなのかもしれない。

人混みを抜け、天主堂跡付近の脇道にある小さなレストランに入って、遅めの昼食をとった。ハンバーガーやポテト、ピザなどを出す店で、私はピザを食べた記憶がある。人混みで疲弊しきっていた身に、こういう分かりやすい食べ物は、かえってありがたかった。家族4人でおよそHK$182(約3,450円)と、マカオの観光地のど真ん中にしては、そう高くもない食事だった。
その後、セナド広場の方まで戻り、道すがらソフトクリームを食べたり、市内の方まで歩いてエッグタルトの有名店でエッグタルトを買って頬張ったりと、食べ歩きを楽しんだ。マカオといえばエッグタルト。人混みには疲れたが、この食べ歩きだけは、素直に美味しかった。
タクシーが捕まらず、結局また歩く
食べ歩きを楽しみ、そろそろホテルに戻ろうという流れになった。歩き疲れた足には、タクシーがありがたい。マカオの象徴的なカジノホテル、グランド・リスボアのあたりまで歩き、そこからタクシーを拾ってホテルへ帰る算段だった。
まず、何人かはうまくタクシーを捕まえて、先にホテルへと帰っていった。ところが、である。残った我々の分のタクシーが、これがまったく捕まらない。待てど暮らせど、空車が来ない。あるいは来ても、すぐに他の客に取られてしまう。
観光地で一日中歩き回り、人混みに揉まれ、足はもう限界に近い。そんな状態で、タクシーを待ち続けるのは、なかなかに堪える。結局、しびれを切らした我々の一部は、歩いてホテルまで戻ることにした。名所巡りで歩き、人混みで歩き、そして最後はタクシーが捕まらずに歩く。この日は、とにかくよく歩いた一日だった。
母、眼鏡を紛失する
そんな疲労困憊の一日に、追い討ちをかける出来事が起きた。
ホテルに戻った頃、母が「眼鏡がない」と言い出したのである。
どこでなくしたのか、まるで見当がつかない。今日歩き回ったマカオの街のどこかなのか、それとも前夜泊まったベネチアンのホテルに置き忘れたのか。それすら分からない状態だった。いとこの一人が、心当たりのある場所にあれこれ電話をかけて問い合わせてくれたのだが、結局、眼鏡は見つからなかった。
母は予備の眼鏡を持ってきていなかったので、少々困ったことになった。とはいえ、本人はなんとかなる、と気丈にしていたので、ひとまず事なきを得た。だが、なくしたものは仕方がない。新しい眼鏡を買うとなれば、それなりの出費である。
さて、この「眼鏡代」を、どう捻出するか。
——ここで、ある男が立ち上がる。前夜、カジノで一人勝ちを収めた男。そう、私である。
眼鏡代を、バカラで稼ぐ
「眼鏡代くらい、稼いでくるよ」
我ながら、なんとも調子に乗った台詞である。だが、前夜のカジノでの勝利が、私に妙な自信を与えていた。向かった先は、ワルドホテルの向かいにある「サンズ・マカオ(Sands Macao)」のカジノ。
そして、この日私が選んだのは、バカラだった。
出だしは、実に順調だった。面白いように勝ちが続き、あっという間に眼鏡代どころか、それ以上の額が手元に積み上がっていく。「なんだ、余裕じゃないか」——この時、私は完全に調子に乗っていた。
そして、調子に乗った人間の末路は、だいたい決まっている。
深追いである。
もう少し、あともう少しと欲を出したところから、風向きが変わった。積み上げたはずの勝ち分が、じりじりと削られていく。結局、最終的に手元に残ったのは——トントン、母の眼鏡代がなんとか戻ったくらいだった。
大きく勝てたはずが、深追いして戻してしまう。ギャンブルの典型的な負けパターンである。とはいえ、「眼鏡代を稼いでくる」という大見得だけは、かろうじて有言実行できた。プラスマイナスゼロに眼鏡代が乗った、と考えれば、まあ、悪くない。
**引き際を見誤った男が語る、引き際の大切さ。**説得力は皆無だが、これも旅の勉強代ということにしておこう。

こうして、マカオ観光の一日は幕を閉じた。広すぎるベネチアンで迷子になり、名所より人混みに疲れ、タクシーが捕まらず歩き倒し、母は眼鏡をなくし——そして、その眼鏡代を私がバカラで(なんとか)稼ぐ。振り返れば、なんとも慌ただしくも、我が家らしい一日だった。
明日はいよいよマカオを離れ、香港へ戻る。そして、子供たちが待ちに待った、あの夢の国が待っている。

