香港・マカオ旅行の3日目。今日は、香港を離れ、フェリーでマカオへと渡る日である。舞台は、世界最大級のカジノリゾート、そのど真ん中へ。だが、その豪華絢爛な一日も、始まりは実に地道な「荷物運び」からだった。
荷物を先回りで預ける、計画魔の作戦
この旅の動線は、少々ややこしい。香港に数日滞在し、マカオへ渡って2泊し、また香港へ戻ってくる。つまり、マカオ滞在の間は使わない荷物を、わざわざマカオまで運ぶ必要はない。
そこで、計画魔は考えた。マカオで使わない荷物は、先に香港の最終宿泊先へ預けてしまえばいい、と。
我々が香港を発つ前の最後に泊まる予定のホテルは、湾仔(ワンチャイ)にある「ハーバービュー香港」。まだチェックイン日ではないのだが、ダメ元で問い合わせてみると、先に荷物だけ預かってくれるという。これは助かる。マカオで不要になる衣類などをスーツケースに詰め込み、私といとこ2人の計3人で、そのスーツケースをハーバービューへ運ぶミッションに出た。
スーツケースが何個もあったので、大きめのタクシーを呼んだ。そして、ここで一つ、香港の洗礼を受けることになる。
香港のタクシーは、スーツケース1個ごとに追加料金がかかるのだ。

日本の感覚だと、荷物をトランクに積むのに別料金、というのはあまり馴染みがない。だが香港では、トランクに入れる荷物は1個あたり数香港ドル(2025年時点で1個6香港ドル、約115円)が加算される。人数ではなく、荷物の数で課金される仕組みだ。スーツケースを何個も積んだ我々は、地味にこの荷物代を上乗せされることになった。知らないと「あれ、思ったより高い」となる、香港タクシーの小さな落とし穴である。
無事にハーバービューへ荷物を預け、身軽になって戻る。帰り道には、香港で有名な紅茶ドリンクの店に立ち寄った。妻がずっと「飲んでみたい」と言っていた店だ。人気店の一杯を土産片手に、モンコックのホテルで全員と合流した。
フェリー乗り場での待ち時間と、無料フェリー
必要な分のスーツケースだけを持ち、全員で電車に乗って向かったのは、上環(シェンワン)のフェリーターミナル。ここからマカオ行きのフェリーに乗る。
フェリーの出発までは、1時間〜1時間半ほどの余裕があった。この待ち時間を、我々はターミナルで思い思いに過ごした。フェリー乗り場の下層階にあるフードコートで昼食を済ませ、そのままみんなでおしゃべりに花を咲かせたり、何人かはターミナル内のショッピングモールを冷やかしに行ったり。大所帯の旅は、こういう「待ち時間をただ一緒に過ごす」時間そのものが、案外いい思い出になる。
そして、ここで計画魔の下調べが、静かに火を吹く。
このマカオ行きフェリー、実は事前にオンラインで申請・予約をしておくと、乗船料が無料になるキャンペーンをやっていたのだ。QRコードが発行され、それを見せるだけで乗れる。条件はいくつかあるのだが、我が家4人はこれにぴったり当てはまり、本来一人あたり4千円弱するフェリー代が、まるまる無料になった。
家族4人分となれば、それだけで1万円以上の差である。「こんなにお得に乗れた」という満足感は、豪華な体験とはまた違う、確かな喜びがある。計画魔の面目、ここでも無事に保たれた。

上環からマカオまでは、1時間かからないほど。船内は広々としていて、ガラガラだった。子供たちは特にはしゃぐわけでもなく、淡々と席に座ってお菓子を食べながら過ごしていた。ただ、船内は少し寒かったのを覚えている。揺れることもなく、あっという間にマカオのフェリーターミナルへ到着した。
ベネチアン、きらびやかな別世界
マカオのフェリーターミナルに着くと、各カジノホテルへの無料送迎バスが、あちこちから出ている。マカオのカジノホテルは、こうやって客を自分のホテルへ運ぶための送迎バスを無料で走らせているのだ。
我々が泊まるのは、マカオで最も有名なカジノホテルの一つ、「ベネチアン・マカオ(The Venetian Macao)」。当然、ベネチアン行きの送迎バスもある。ターミナルから徒歩1分ほどの待合場所まで歩き、無料バスに乗り込んで、いざホテルへ。
そして、ベネチアンに足を踏み入れた瞬間、そこは完全に別世界だった。

エントランスからチェックインカウンターにかけて、その脇には広大なカジノフロアが広がっている。すべてがピカピカで、高級感に満ち、どこを見てもキラキラと輝いている。昨日までのモンコックの、あの生活感あふれる下町とは、まるで対極の世界。初マカオ組はもちろん、私も改めてそのスケールに圧倒された。ホテル内のモニュメントの前で写真を撮ったりしながら、一同、すっかりお上りさん状態である。
ただ、今回押さえたのは4部屋。大所帯ゆえの部屋数で、チェックインには思いのほか時間がかかった。

ちなみに、この日の宿は一室あたり一泊約8万円。マカオでの2泊のうち、この日は「贅沢する日」と決めていた。そして、その贅沢は部屋の広さに如実に表れていた。それは、次の見出しで語ることにしよう。
76㎡のスイートで、結局フードコート飯
チェックインを済ませ、部屋に入って、まず驚いたのはその広さだった。
各部屋、すべてスイート。広さは一室あたり76㎡ほどもある。昨日まで、香港のホテルの20数㎡の部屋に11人がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、肩を寄せ合って朝食を食べていたのが嘘のようだ。ここでは、全員が一部屋に集まっても、まだ余裕がある。同じ「みんなで一部屋に集まる」でも、香港とマカオでは、その快適さがまるで違った。

さて、この豪華絢爛なベネチアン。夕食はさぞ贅沢な、と思いきや——我々が向かったのは、ホテルの中にある巨大なフードコートだった。
カジノホテルの2階か3階(記憶が定かではない)に、ショッピングモールのような巨大なフードコートがある。そこで思い思いに食材や食べ物を買い込み、両親の部屋に集まって、みんなで食べる。世界最大級のカジノリゾートの、76㎡のスイートルームで、フードコートの持ち帰り飯を囲む一族。この光景である。
昨日はクリスマスにKFC、今日は豪華スイートでフードコート飯。どこに泊まろうと、どんな舞台が用意されようと、結局この一族は、部屋にみんなで集まって、わいわい食べるのが一番好きなのだ。そしてそれが、なんだかんだで一番楽しい。
ちなみにこの日、フードコート飯の食卓には、誰かが持ち込んだ**茅台酒(マオタイ)**が登場した。中国を代表する高級白酒である。高級なのは間違いないのだが、いかんせん、あの独特の強烈な香りが部屋中に充満する。飲める人にはたまらない一杯なのだろうが、慣れない者には、なかなかの洗礼であった。

子供を寝かせて、大人9人でカジノへ
フードコート飯と茅台酒で一息ついた頃、大人たちの間に、ある共通の目的が芽生え始めていた。
マカオといえば、カジノである。
子供たちを寝かしつけ、妻が子供2人を見ていてくれることになった。そして、残りの大人9人。私を含めた一族の大人たちは、いそいそとカジノフロアへと繰り出したのだった。
先に断っておくが、私はカジノで勝った試しがほとんどない。たまの機会に立ち寄っても、だいたい負けて終わる。この日も、どうせいつも通りだろう、と思っていた。
ところが、である。
この夜に限って、私は、なぜか勝った。
スロットを回せば当たり、テーブルに着けば勝つ。どこで何をやっても、面白いように勝ちが続く。一方、一緒に来た他の大人たちはというと、1万、2万と賭けては、順当に負けていく。大人9人でカジノに乗り込んで、勝っているのは、なぜか私一人という異様な状況だった。
「すごい!」という声と、「なんであんただけ勝つのよ」という悔しげな視線を同時に浴びながら、私は一人、静かに勝ち続けた。最終的にいくら勝ったかは、まあ、ここでは伏せておこう。普段の負けを、この一夜でいくらか取り返せた、とだけ言っておく。
21時過ぎから始めて、ホテルに戻ったのは23時半頃。2時間ほどの、短くも濃密なカジノ体験だった。

こうして、マカオ初日の夜は更けていった。フェリー無料、豪華スイート、フードコート飯、そして予想外のカジノ勝利。振り返れば、実に濃い一日だった。
ただ一つ、心残りがある。このベネチアン、あまりに広く、あまりに見どころが多すぎて、滞在時間ではとても遊びきれなかったのだ。館内のショッピングモール、運河をゴンドラが行き交う名物の施設、その他数えきれないアトラクション。「もっとゆっくり、ベネチアンの中を楽しみたかった」——これは、今でも母や叔母が、折に触れて口にする言葉である。一泊では、この壮大なリゾートを味わい尽くすには、あまりに短すぎたのだ。
次はいつか、マカオのために、丸一日を空けて訪れたい。そう思わせるだけの魔力が、この街には確かにあった。

